100日間、人が集まり続ける場はどうつくられるのか 『新宿グルメパーク大作戦』に見る、フードフェスの体験設計
ブルースモービル 代表取締役 プロデューサー / 井上淳矢
新宿区立大久保公園で4つのイベントを連続開催し、約100日間にわたって展開。動員数40万人を見込む大型フードフェスプロジェクト『新宿グルメパーク大作戦』が2026年9月に開幕。新しい時代の体験創造を推進するTOWグループは、食のイベントでいかなる価値を提供するのか? イベント運営責任者と出店者の思いをたずねながら、フードフェス特有の体験設計の裏側に迫った。
テレビ番組の企画・制作を起点にキャリアを重ね、フードフェス黎明期から現場を切り拓いてきたブルースモービル代表。「大つけ麺博」をはじめ数々の食イベントを手がけ、生活者の熱狂を生む場づくりを推進。リアルな場で人の笑顔に直接触れられる体験価値を大切にしている。
リアルエンタメを代表するフードフェスで取り組む新たな体験価値の創出
信じ難い数字に目を奪われがちな『新宿グルメパーク大作戦』。まずは、同じ場所で4種のイベントが連続して行われるこのプロジェクトの規模感を、各イベントの開催スケジュールで示す。
●東京カレー万博2026:2026年9月11日(金)~10月7日(水)
●大つけ麺博 presents ラー1グランプリ:2026年10月10日(土)~11月15日(日)
●町中華と餃子フェス 2026年11月17日(火)~11月29日(日)
●ガーリックリスマス 2026年12月2日(水)~12月25日(金)
イベント概要は、すでに開幕した『東京カレー万博2026』を例に挙げて説明する。
全国から参加する店舗数は48。1ターンで9店をオープンさせながら、最終日まで数日ごとに入れ替えていく。その間のイベント休業日は9月24日(木)の1日のみ。入場料は無料。会場入り口で200円刻みの食券を販売。ライスステーションで一皿400円のライスを購入し、600円から始まるカレールーやビリヤニ、ドーサを楽しむ仕組みになっている。
『東京カレー万博2026』が閉幕した3日後には『大つけ麺博 presents ラー1グランプリ』が開幕。今度は60店舗を超えるラーメン店が参加。その後は、メニュー設計からスタートした『町中華と餃子フェス』と、「日本一くさくて美味しいクリスマス」をテーマに掲げた『ガーリックリスマス』が続いていく。
以上が、TOWグループが立ち上げた『新宿グルメパーク大作戦』のアウトライン。TOWグループがフードフェスに注目したのは、食を起点に生活者が集まるリアルエンタメの代表的な場であり、新たな体験価値を創出できる領域だからだ。それを実現させるべく『新宿グルメパーク大作戦』を実行するのが、食関連イベントで国内有数の企画・運営実績を持ち、2026年4月にTOWグループのメンバーとなったブルースモービルだ。
いずれにしても、過密で濃厚なスケジュールを表す、怒涛と言わざるを得ない100日間/40万人という数字。これが意味するものとは何か、『東京カレー万博2026』初日の大久保公園でブルースモービル代表の井上淳矢氏にたずねた。返ってきたのは、想定外の答えだった。
食イベントを通じて、常にシーンやカルチャーの盛り上がりを考えている
「数字が注目されるなら助かります。しかし僕らには90日間連続の経験があるし、しかも毎年この時期は大久保公園でイベントを開いているので、今年も来たなって感じなんです」
そう言われてしまえば「さすが!」と唸るほかない。それでも過去最長記録になる100日間を実現させる大変さを聞き出そうとしたが、これも失敗に終わった。
「『東京カレー万博』は2025年12月2日から14日まで、この大久保公園で初開催したのですが、あと10日延ばせたらクリスマス当日に当たって、より盛り上がると思ったんですね。それを新宿区に相談したら今年はOKになったので、ならばと『ガーリックリスマス』を企画しました」
クリスマスの料理は、突き詰めればニンニク料理。そこでダジャレのイベント名を思いついたという。
「ただし現時点で内容はまだ全ては固まっていません。前のイベントを走らせながら決めていきます」
そんな話を聞いてしまえば、100日間よりクリスマスイベントの進捗が気になる。それも含めて苦労などを聞かせてもらおうとしたが、やはり井上氏にはかわされてしまった。
「僕自身、食べることが好きで、それをもとにエンタメ体験を創っているのに、苦労とか思ったら何もできなくなる。とにかくお客さんが楽しそうな姿を見て、僕らも楽しむ。あとは気合いと根性。それだけですよ」
それが井上氏のイベント体験観なのかもしれない。
「どの会場の設計も、僕の中では某有名テーマパークをイメージしています。入り口では中に何があるかわからない。けれど門をくぐったら各ブースが広がっていて、いきなりテンションが上がる。この件、どこで話しても本気と思われないんですけれどね」
写真提供:井上淳矢
さておき、今年で2回目となる『東京カレー万博』の開催には、カレーシーンやカレーカルチャーを活気づける目的があるそうだ。
「ラーメンには独自の文化が根付きましたが、家で食べるものというイメージが強いカレーには、まだシーンやカルチャーが足りません。その育成に必要なのが、同業者たちの情報交換の場。そこで全国から出店を募り、このイベントでカレー店同士のつながりをつくってもらおうと。昨年参加した店からは、刺激になったという声をもらいました。僕らは食イベントを通じて、常にシーンやカルチャーの盛り上がりを考えているんです」
それが一般来場者だけでなく、出店者にとっての体験価値にもつながっていることは、開催初日のターンに入っていた2軒のオーナーシェフの言葉からも確認できた。
『新宿グルメパーク大作戦』で実感した体験の三方良し
最初に話を聞いたのは、『食べログ カレー TOKYO 百名店』に選出された、東京・八丁堀の『ジャパニーズ スパイス カリー ワッカ』の三浦智輝氏。ブルースモービルの井上氏が『東京カレー万博』を企画する際、カレーに関する様々な情報を聞かせてもらった人物だという。
『ジャパニーズ スパイス カリー ワッカ』の三浦智輝氏
「外食ラーメンの市場規模は約9,000億円と言われていますが、カレーは900億円程度。どちらも国民食ですから、カレーもラーメンに近いマーケットに成長させたい。そのきっかけになれば」というのが、三浦氏がカレーフェスに参加する理由だ。フェスに出店した感想も「店がいちばんほしいのは、横のつながりなんですよ。カレー業界はライバル意識より、ともに上がっていく協力関係を求めていますから」とのことだった。
写真提供:ジャパニーズ スパイス カリー ワッカ
「今後に期待するのは、今年の『東京カレー万博』で行った、ラーメン店によるカレーづくりの企画がさらに広がることですね。新しい流れが入ればカルチャーが拡大しますから、どんどん受け入れてほしいです」
東京・中目黒に店を構える『Patta Nakameguro』の浅田英司氏は、開店2年半のタイミングでウェブマガジン『TOKYO CURRY MAGAZINE』で紹介され、『東京カレー万博』の初参加を果たしたという。
『Patta Nakameguro』の浅田英司氏
「驚いたのは、出店者同士お互いにカレーづくりを教えてくれたことでした。そんな同業の仲間を増やせるのがカレーイベントの良さだと知りました。この『東京カレー万博』がもっと大きくなり、お客様から「ここに出る店は一流」と見られるほどのステータスを獲得できたら素晴らしいと思います」
写真提供:Patta Nakameguro
前段で、「TOWグループがフードフェスに注目したのは、食を起点に生活者が集まるリアルエンタメの代表的なイベント」としたが、『新宿グルメパーク大作戦』は「代表的なイベント」の根をさらに太くする要素があると思った。なぜなら、人間の三大欲求でもある食のエンタメに足を運ぶ来場者と、食文化の隆盛を願う出店者。そしてイベントづくり自体を楽しむ運営者のすべてが喜べる、“体験の三方良し”を実感したからだ。
「12月の『ガーリックリスマス』で確定しているのは、会場入り口の大きな木をクリスマスツリーに仕立て上げることです。かなり大きな規模になる予定ですよ」
これは井上氏からのお知らせ。『新宿グルメパーク大作戦』は、誰もが楽しめる様々な食を展開しながら、年末まで一気に駆け抜けていく。
ブルースモービル 代表取締役 プロデューサー 井上淳矢
※2026年9月時点の情報です。
Photo:田中成美
Interview&Text:田村 十七男