【リアルエンタメユニット INSIGHT】 スポーツは、“熱狂”だけじゃない。 ― スポーツのプロフェッショナルと考える、企業や社会の課題を動かす“スポーツ体験”の可能性
株式会社スポーツビズ 執行役員 スポーツマーケティング事業部 部長 / 寺野一史
株式会社エスレリエール 取締役 / 宇山賢
T2 Creative 取締役 執行役員 企画演出チームリーダー / 近藤大輔
TOW 体験デザイン本部 金子チーム 工藤グループ / 工藤駿
スポーツを活用したイベントと聞くと、大会への協賛やアスリートの起用、会場の熱狂を生かした演出を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、スポーツが持つ力は、それだけではありません。教育、健康、地域活性、社会貢献、企業ブランディング。さまざまなテーマと結びつき、人や社会を動かすきっかけになり得ます。
TOWでは今回、「リアルエンタメユニット トークイベント『スポーツ篇』」を開催しました。本企画は、リアルエンターテインメントをテーマごとに掘り下げ、現場の知見や可能性を共有するトークイベントの第3回です。
今回、ゲストとして迎えたのは、総合スポーツマネジメント会社・株式会社スポーツビズの執行役員 スポーツマーケティング事業部長、寺野一史さん。さらに、フェンシング男子エペ団体で金メダルを獲得した、元日本代表 宇山賢さんにも参加いただきました。
スポーツを企業の課題解決にどう生かすのか。アスリートや競技と向き合う上で、何を大切にすべきなのか。そして、TOWの体験づくりとスポーツは、どのような可能性を生み出せるのか。印象的だったトークを紹介します。
スポーツの仕事は、大会やアスリートの起用だけではない。
株式会社スポーツビズは、トップアスリートのマネジメントで広く知られています。しかし、同社の事業を支えるもう一つの柱が、企業や自治体の課題に対して、スポーツやアスリートを通じた解決策を提案するスポーツマーケティングです。
SPORTS BIZは、「アスリートマネジメント」「スポーツマーケティング」という2つの事業を基盤に、スポーツに関連する人々と企業・社会に新しい価値を提供していくスポーツコンテンツメーカー。
イベントやスポーツ教室の企画・運営に加え、コンサルティング、コンテンツ開発、キャスティング、プロモーション、Webや動画の制作まで、その領域は多岐にわたります。寺野さんは、スポーツを“目的”ではなく、課題を解決するための手段として捉えることが重要だと語ります。
寺野「まず考えるのは、企業の課題は何か、ターゲットは誰か、何を達成したいのかということです。その上で、スポーツがどう寄与できるかをブレイクダウンして考えます。大きな大会に協賛すればいいという時代ではなく、100人、200人でも、深いコミュニケーションが取れた方が成果につながることもあります。」
スポーツイベントをつくることから始めるのではなく、企業や地域が抱える課題から考える。この視点は、TOWが大切にする体験設計にも通じます。
スポーツは、さまざまな課題とつながる“プラットフォーム”。
トークの中で繰り返し語られたのが、「スポーツ×何か」という考え方です。スポーツは、教育、健康、地域貢献、社会課題など、幅広いテーマと自然につながることができます。
寺野「スポーツの価値は一つではなく、無限にあると思っています。スポーツは、何かとうまくつながるプラットフォームになれる。競技を見たい人、する人、支える人がいて、すでに関心を持つコミュニティがあるので、メッセージが深く届きやすいことも強みです。」
例えば、丸の内で働くオフィスワーカーの方々の健康増進やインナーエンゲージメントを向上させることを目的とした駅伝や綱引き大会、自治体と取り組むスポーツクライミングやフェンシングでのまちづくり、ウォーキングと大腸がん検診の啓発を組み合わせた企画など。スポーツを起点にすることで、参加する楽しさと社会的な意義を一つの体験としてつなぐことができます。
これまでTOWのスポーツ案件では、大会の熱狂や感動をどう体験へ変えるかが、一つの中心にありました。しかし、今回の話を受け、工藤はスポーツの捉え方が広がったと話します。
工藤「これまでは、大会の熱狂にどう乗るかという文脈で考えることが多かったと思います。でも、それだけではない。企業や社会の課題とスポーツをつなぐことで、もっと深い提案ができると感じました。」
アスリートを“呼ぶ”のではなく、パートナーとして向き合う。
一方で、スポーツやアスリートを活用する際には、その競技特有のルールや文化への理解が欠かせません。
例えば、各競技のトップ選手は、撮影だからといって本番と同様のパフォーマンスをその場で何度も出来る訳ではなく、動ける身体をしっかりと整え、きちんとした環境条件の中でないと怪我などのリスクが伴うため対応が難しい、ないしは制約がかかる場合もあります。競技では当たり前のことでも、企画する側が知らなければ、実現できると思っていた演出との間にズレが生まれます。
寺野「アスリートへのリスペクトは大前提です。ただ、マーケティングやプロモーションでは、アスリートが絶対的な存在になるのではなく、クライアントと一緒に何をつくり上げるかを考えるパートナーであるべきだと思います。」
スポーツ領域の演出を多く手掛けてきた近藤も、競技現場では、音を流せる時間や選手の動き、実施できる演出などに細かな制約があると話します。以前、国立競技場のイベントにウサイン・ボルト選手を迎えた際も、観客が期待する“全力疾走”と、実際の契約で可能なパフォーマンスには違いがありました。アスリートを起用すれば、思い描いたことがそのままできるわけではありません。
近藤「スポーツの演出は、競技ルール上、この時間は音を流せない、これはできないという制約がすごく多いんです。その中で、競技や選手へのリスペクトを保ちながら、どうすれば新しい見せ方ができるかを考えてきました。制約を理解した上でアイデアを形にすることは、僕らの強みにもなると思います。」
宇山さんも、知名度やメダルだけで人を集めることには限界があると話します。アスリートが持つ経験や視点を、企業や生活者と同じ方向を見ながら生かしていくこと。その関係がつくれたとき、単なるゲスト出演を超えた体験が生まれます。
宇山「オリンピアンやメダリストという肩書だけでは、引退後、その価値は少しずつ薄れてしまいます。でも、アスリートはさまざまなテーマに向き合い、一緒に考えることができる。スポーツ側と企画する側が情報を交わす場が増えれば、新しいものをつくれると思います。」
協賛して終わりではなく、権利を“体験”へ変える。
企業のスポーツ協賛では、ユニフォームへのロゴ掲出や会場看板、Webサイトへの掲載など、多くの権利が用意されています。しかし、契約した権利を十分に活用できていないケースも少なくないといいます。
工藤が投げかけたのは、「企業は協賛によって、何を目指しているのか」という問いでした。協賛自体をゴールにせず、ブランディング、売上向上、ビジネス機会、地域・社会貢献、社内の一体感づくりなど、目的を明確にすることが重要です。目的が見えれば、冠試合やサンプリング、顧客招待など、権利を体験へ変えるアイデアが生まれます。
寺野「高い費用を払って権利を持っていても、活用するアクションが取れていない企業は多いです。そこにきちんと提案して入っていくことが重要です。TOWのように、すでに体験を形にする土台がある会社なら、もっと上流から関われる領域があると思います。」
工藤「相談が来る時点では、協賛の条件が決まっていることも多いです。でも、企業が何を成果として求めているのかまで解像度を上げられれば、もっと提案を強くできると思います。」
スポーツを選ぶところから、保有する権利をどう生かすか、どんな体験にするかまで伴走する。そこには、TOWの企画力や演出力を生かせる大きな余地があります。
一つの案件に、一度“スポーツなら?”と考えてみる。
スポーツは、音楽、食、街づくり、IPなど、リアルエンタメユニットが取り組むほかの領域ともつながりやすい存在です。スポーツの聖地を起点にした街づくり、アニメのキャラクターと実在する選手の共演、競技を支える食や商品の体験など、組み合わせによって可能性はさらに広がります。
だからこそ、スポーツ案件として相談が来るのを待つ必要はありません。まだ企画の輪郭が定まっていない“ゼロイチ”の段階から、「この課題をスポーツで考えたら何ができるか」と問いを立てることが、新しい提案の入り口になります。
近藤「スポーツは、意外とどこから考えてもつながりやすい。案件が来たときに、一度だけでも『スポーツで考えたら?』と立ち止まってみると、新しい線が見えてくると思います。まずは実際に考えるタイミングをつくってほしいですね。」
近藤が語ったのは、スポーツを特別な案件だけで使うのではなく、日々の企画における選択肢の一つにすることでした。音楽や食、街、IPと同じようにスポーツを捉え、案件の初期段階から可能性を検討する。その積み重ねが、これまでになかったTOWならではのスポーツソリューションにつながっていきます。
“熱狂を借りる”だけではなく、企業、社会、地域、生活者が抱える課題とスポーツをつなぎ、新しい体験をつくること。今回の「リアルエンタメユニット トークイベント(スポーツ篇)」は、TOWにとってのスポーツが、イベントの一ジャンルではなく、さまざまな価値を生み出す可能性に満ちた領域であることを教えてくれる時間となりました。
※2026年10月時点の情報です。
Photo:植木聖夜
Text:村松亮