『イベント演出の学校』で演出家への門戸をひらく―T2 Creative取締役執行役員 クリエイティブユニットリーダー 近藤大輔
T2 Creative 取締役 執行役員 クリエイティブユニットリーダー 企画/演出/ディレクター / 近藤大輔
「オフライン・オンライン・バーチャルを問わず、幅広い“リアルな体験価値”を創るイベントプロダクション」を標榜するT2 Creativeが、一般・学生に向けて『イベント演出の学校』を開講。さまざまなジャンルで活躍する現役の演出家やクリエイティブディレクターを講師に招き、イベント演出家になるための入口を設けた理由、そしてそこに込めた期待を、自身も講師を務めるT2 Creativeの演出家に聞いた。
クリエイティブユニットリーダー
企画/演出/ディレクター
WBCオープニングセレモニーの企画・演出・制作にも携わり、クライアント課題に寄り添いながら、多くの人が喜ぶ着地点を設計するバランス感覚を強みとする。現在は「イベント演出の学校」の講師として、次世代育成と業界のボーダーレス化にも取り組んでいる。
出会いがあってこその演出だったWBCオープニングセレモニー
――『イベント演出の学校』について触れる前に、T2 Creativeがどのような会社なのか教えてください。
近藤事例を挙げたほうがわかりやすいと思うので、2026年3月5日〜6日に開催された『2026 WORLD BASEBALL CLASSIC Tokyo Pool オープニングセレモニー』を紹介させていただきます。2023年大会に続き、前回は現場担当だった僕が、今回は企画・演出・制作を担当しました。今回は「ONE BEAT – 野球で、世界はひとつになる」という大会コンセプトのもと、「ONE BEAT」に導かれる形で、音楽とレーザーを駆使した演出にしました。
T2 Creative取締役執行役員 クリエイティブユニットリーダー 近藤大輔
――Netflixを通じて、多くの人に注目されたイベントになりましたね。
近藤広い東京ドームを物理的に埋め尽くすのではなく、グラウンドから天井までの高低差を利用した効果を楽しんでいただこうと考え、音楽とレーザーを生かした企画にたどり着きました。この演出も、人との出会いがなければ実現できませんでした。
音楽は、全日本フェンシング選手権大会などでご一緒した、FPM(Fantastic Plastic Machine)としても活躍している田中知之さん。レーザーは、横浜DeNAベイスターズのイベントで出会ったCRYSTALINOの茶原未結さん。そうした方々とのご縁があってこその演出だったので、フィジビリティの高さとともに、想いのこもったものをつくることができたと自負しています。
――イベント開催に向けて、演出担当として心掛けていることは何でしょうか。
近藤TOWを含め、僕らはアーティストではなく、クライアントの課題解決がミッションです。だから、まずはクライアントに寄り添うこと。ただし、イベントに足を運んでくれるお客様や出演者、あるいはさまざまな関係者全員が「いいな」と思ってくれる着地点が必ずあるので、そこを常に見極め、最終的にクライアントの利益につながることを考えます。要はバランスを大事にするということですが、これは演出家を始めた頃の自分が、何も尖ったところがないと悩んだ末にたどり着いた答えでもあります。
――“尖る”というのは、いかにも演出家らしい見た目や言動のことですか?
近藤そういうものが必要なんじゃないかと思って頑張ってみた時期もあったんですが、やはり他にはない自分らしいバランス感覚というか“普通力”を武器にしようと切り替えました。それからは、どんな演出をするかと聞かれたら、「みんながいい演出」と答えられるようになったんです。もちろん、自分なりの信念はありますが、多くの人に褒められたらうれしいじゃないですか。
閉鎖的なイベント業界のボーダーレス化を果たす人材の発掘
――では『イベント演出の学校』について。まずは開講の経緯を教えてください。
近藤会社として演出を強くしていきたいという戦略とブランディングに則って、後進を育成するために企画しました。僕の経験上、演出家は孤独な場面が多いんです。しかも社内では演出担当が少なく、演出家が個になりやすかった。それを演出家集団に変えていくには、若い世代に成長機会を与えなければいけない。そう考えたところが出発点です。
――であれば、社内限定の育成プログラムでもよかったのでは?
近藤社内だけだと教えられる人材が限られてしまうし、いろいろな演出家の話を聞いて学ぶべきだと思うんですね。なおかつイベント業界全体には、広告系、音楽、エンタメ、ファッション、芝居、アート、伝統芸能などさまざまなジャンルがありながら、個々で形成された文化によって横のつながりが乏しいという閉鎖性があります。そんな業界に対して、コラボレーションが求められることもある広告イベントに長けた僕らが率先して、ボーダーレス化を果たしていきたい。それを叶える人材を発掘するのも、この学校の目的です。
※掲載時、申し込み締切は終了
――そんな人材を広く世間に求めるため、オープンな学校を開くと?
近藤演出家って、どうやったらなれるのかわからないじゃないですか。灰皿を投げつけるような人に弟子入りしなきゃいけないのか、とか。とにかく入口が見えない。そこに門戸を設ければ、演出に興味を持つ若い人のチャンスになるし、業界にも広がりをつくれると思うんです。
――近藤さんは、どうやって演出家になったのですか?
近藤僕は社内公募という運に恵まれました。その時点で、演出が何たるかをわかっていたわけではありません。ただ、元々イベントに興味があって、中でもライフイベントが好きで、なおかつ涙もろいせいか、人の結婚式でも泣けるんですね。つまり、心がどう動かされるかを知っているなら、人の心も動かせるのではないかと思って、イベント演出家を希望しました。
――近藤さんも『イベント演出の学校』の講師に名を連ねていますが、講義内容は決まっていますか?
近藤今回の講師陣は、これまでにお仕事をご一緒した方や、僕が話を聞いてみたい人にお声がけして、集まっていただきました。それぞれ個性的な講義を行ってくれると思いますが、僕は出会いの大切さを軸に、自分の人生を語ろうと思っています。WBCの件でも触れましたが、素晴らしい人たちの才能が演出の切り口につながっていくので、僕なりの方法論としても、出会いに重きを置いた話をする予定です。
業界の垣根を超えたコラボを広げていく、ハブになりたい
――イベント業界全体の広がりも視野に入れた『イベント演出の学校』への期待を教えてください。
近藤テクノロジーの発展で表現の可能性が広がったこの時代だからこそ、演出という職能、または手法を再定義することが大切だと思っているんです。拾い上げたいのは、実は自分がやりたいのは演出的なことなのに、演出という仕事を知らないからたどり着けないでいる若い人たちなんですね。いずれにしても、あらゆる演出家志望層に気づきや発見を与える意味でも、演出を再定義する学校をつくりたかったんです。
――門戸すらなかったですからね。
近藤ええ。だから、いろんな特徴を持った人に来てほしいですね。キーワードはデザインかもしれません。一般的に、デザインには興味があっても、演出と聞くとステージだけにとらわれてしまうようなんですね。ですが、本来のイベント演出には、空間設計から受付スタッフの衣装、事前の情報設計やウェブサイト制作まで含まれます。要するに、イベントはデザインの塊。TOWグループが提唱し続けている「体験デザイン」も、僕には「体験=イベント」「デザイン=演出」と読めるわけです。
この前も、依頼をいただいた花火ショーやドローンショーの演出を若い子に頼むとき、演出という言葉を使わず「空のデザインを考えて」と伝えたら理解が早かったんですよね。そうした意識のシフトを行う場としても『イベント演出の学校』に期待していますし、学んでくれた人の中から、一人でも二人でも実際の演出家になってくれたらと願っています。
――近藤さんにとって、演出とは?
近藤先にも話したように、僕らのミッションはクライアントの課題解決ですが、良いイベントをつくれば、みんながハッピーになれます。だから僕にとって演出は、人を豊かにするツールであり、手法です。また、僕らが得意な広告プロモーションとエンタメは相性がいいので、我々がイベント業界の垣根を超えたコラボを広げていくハブになりたいと思っています。そのためには、後進の育成が不可欠です。最近は若い人の成長が楽しみになってきました。演出家としてまだ負けるつもりはありませんけれど、もともとエモーショナルなほうなので、独り立ちする姿を見たら、涙がこぼれるかもしれませんね。
※2026年6月時点の情報です。
Photo:後藤 薫
Interview&Text:田村 十七男