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プロジェクトストーリー 2026.10.05

京都から東京へ。場所とともに変化する〈AMBIENT KYOTO〉の体験づくり

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2026年8月28日(金)、麻布台ヒルズギャラリーで〈RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO – TOKYO〉が開幕した。

京都を舞台に、音楽、美術、映像、建築、都市空間を横断する体験をつくってきた〈AMBIENT KYOTO〉にとって、今回は初めての東京開催となる。会場で展開されているのは、坂本龍一と高谷史郎によるインスタレーション《async – immersion》。

2023年の〈AMBIENT KYOTO〉で発表された作品を、麻布台ヒルズギャラリーの空間に合わせて再構成したものだ。同じ作品を、そのまま別の場所へ移すのではない。

建築の構造や音の反響、スクリーンとの距離、鑑賞者の居場所までを受け入れながら、その会場でしか成立しない体験をつくる。

TOWが主催・企画制作として関わる〈AMBIENT KYOTO〉は、作品を展示するだけでなく、場所そのものを体験へと変えていくプロジェクトでもある。京都で生まれた音と映像の空間は、東京でどのような「場」として立ち上がったのだろうか。
 

都市とともにつくられてきたAMBIENT KYOTO

〈AMBIENT KYOTO〉は、2022年に京都で始まった。

その原点となったのが、京都中央信用金庫旧厚生センターを会場に開催された〈BRIAN ENO AMBIENT KYOTO〉だ。音と光が変化し続けるブライアン・イーノの作品を、鑑賞者が自由に歩きながら体験する。そこでは、作品だけでなく、長い歴史を持つ建築や、会場へ向かうまでの街の風景も体験の一部となっていた。

〈AMBIENT KYOTO〉が提示する「アンビエント」は、単なる音楽ジャンルではない。音、光、映像、建築、そして鑑賞者を取り巻く環境全体を捉え直し、その中に身を置くための体験として展開されてきた。

2023年には会場を広げ、京都新聞地下印刷工場跡などを舞台に、坂本龍一+高谷史郎、コーネリアス、Buffalo Daughter、山本精一らによる展示を開催。国立京都国際会館や東本願寺ではライブも行われ、音楽、美術、映像、文学が都市の中で交差するプロジェクトへと広がっていった。
なかでも大きな核となった作品が、京都新聞地下印刷工場跡で発表された《async – immersion》である。

かつて新聞を印刷し、社会へ送り出していた地下の空間。その場所に、坂本の音楽と高谷の映像、ZAKによる立体音響が重なることで、建物に残された時間と作品が内包する記憶が結びついた。

都市や建築を単なる背景として扱うのではなく、その場所が持つ性質や記憶まで作品体験に取り込んでいく。そうした姿勢は、〈AMBIENT KYOTO〉の重要な特徴となっている。

麻布台ヒルズギャラリーで再構成された《async – immersion》

《async – immersion》のもとになったのは、坂本龍一が2017年に発表したアルバム『async』だ。

自然音やノイズ、ピアノ、声、沈黙。異なる性質を持つ音が、必ずしもひとつの時間軸に収まることなく共存する『async』の世界を、高谷の映像とZAKの立体音響によって、身体ごと入り込める空間へと拡張している。

麻布台ヒルズギャラリーでは、京都展と同じ幅26.4メートルの巨大なスクリーンを設置。森の木々や花、海、坂本のスタジオに残されたピアノや楽器、東日本大震災の津波で被災したピアノなどを素材とする映像が、視界いっぱいに展開される。

映像は、具体的な風景を映し出したかと思えば、ゆっくりと静止し、引き延ばされ、色の層へとほどけていく。目の前にあるものが、森なのか、海なのか、あるいはまったく別の風景なのか。その輪郭が揺らぐ中で、鑑賞者の記憶や想像力が入り込む余地が生まれていく。

音響は、今回の会場のために改めて構築された。

音響ディレクターを務めるZAKは、初めて麻布台ヒルズギャラリーを訪れた際、手を叩きながら会場の響きを確かめていたという。反響の強さを心配したスタッフから「大丈夫ですか」と尋ねられると、ZAKは「これを生かす」と答えた。

会場の響きを抑え込み、どこでも同じ音を再現するのではない。その場所に存在する反響を一つの要素として受け入れ、音が立ち上がる環境そのものを組み直していく。

前方だけでなく、頭上や背後から現れるピアノ、電子音、金属の振動、自然界の音、ノイズ、語り。立つ場所を変えるたび、それぞれの距離や質感も変化する。音を正面から「聴く」というより、自らその内部を歩いているような感覚が生まれる。

京都新聞地下印刷工場跡と、麻布台ヒルズギャラリー。同じ作品でありながら、それぞれの建築が持つ広さや高さ、残響によって、体験の輪郭は異なる。

今回の東京開催は、完成した作品の再現ではない。空間の条件と向き合いながら、作品をその場所に合わせて再び立ち上げる試みなのである。

鑑賞者が歩くことで完成する体験

《async – immersion》では、『async』の楽曲がアルバムの曲順に沿って再生される一方、音楽と映像は完全には同期していない。それぞれ異なる長さで繰り返されるため、同じ曲を聴いていても、目の前に現れる映像はその都度変わっていく。

音と映像がぴたりと重ならないことで、その間に鑑賞者の想像力が入り込む。さらに、どこに立ち、どのような姿勢で耳を傾けるかによっても、作品との出会い方は変化する。

2026年9月25日に会場で行われたスペシャルトークでは、高谷史郎とZAKが、坂本との制作や作品が生まれた背景を振り返った。

その中で高谷が紹介したのが、坂本の考えていた「設置音楽」という構想だった。自らつくった音楽を、どのような環境で聴いてもらうのか。高谷はその考えを、「音楽を聴くためのお庭みたいなもの」と受け止めていたという。

写真左:常務執行役員・AMBIENT KYOTOプロデューサー 竹下 弘基/写真中央:高谷史郎氏/写真右:ZAK氏

好きな場所へ行き、好きなものを見て、好きな音を聴く。鑑賞者が自ら居場所を選ぶ自由まで含めて、音楽に触れる環境をつくるということだ。
会場内では、スクリーンの正面に座り続ける必要はない。歩いても、立ち止まっても、柱にもたれてもいい。移動すれば、先ほどまで遠くにあった音が近づき、別の音が背後へ回り込む。映像との関係も絶えず変わっていく。

鑑賞者に特定の見方や聴き方を求めないことは、体験を曖昧にすることではない。むしろ、自ら選ぶ余地を残すことで、一人ひとりに異なる時間が生まれる。

高谷はトークで、次のように語っている。

「音と映像の庭にいるような感覚で過ごしてもらえたら、一番いいかなとは思います」

そこにあるのは、強い演出によって一方向へ導く「没入」とは少し異なる体験だ。作品を理解しようと構える必要も、最初から最後まで一つの場所で見届ける必要もない。音に耳を澄ませても、映像を追っても、考え事をしながら過ごしてもいい。

鑑賞者がそれぞれの感覚を開き、自分の記憶や感情と作品を結びつけるための余白が用意されている。

高谷によれば、《async – immersion》は、音と映像が空間に置かれただけでは完成しない。鑑賞者がその中へ入り、何かに反応し、記憶や思い出を呼び起こすことで、初めてインスタレーションとして成立する。

つまり、鑑賞者は完成した体験を受け取るだけの存在ではない。どこに立ち、何に耳を澄ませ、何を持ち帰るのか。その選択や反応もまた、作品を成立させる一部となっている。

場所とともに変化し、続いていくプロジェクト

京都から東京へと展開した今回の〈AMBIENT KYOTO〉が示しているのは、場所が変われば、作品の体験も変わるということだ。

作品を同じ状態で再現するのではなく、建築の構造や音の反射、会場のスケール、そこへ集まる人々との関係を取り込みながら、その場所にふさわしい鑑賞環境をつくる。〈AMBIENT KYOTO〉は、都市や会場と結びつきながら姿を変えていくプロジェクトなのである。

主催・企画制作を担うTOWは、作品、会場、技術、鑑賞者をつなぎながら、このプロジェクトをかたちにしてきた。あらかじめ一つの鑑賞体験へ導くのではなく、会場の特性を生かし、作品と鑑賞者の間にさまざまな関係が生まれる環境を整える。麻布台ヒルズギャラリーでの展示からも、〈AMBIENT KYOTO〉が積み重ねてきた、そうした場づくりへの姿勢が見えてくる。

本展は、2026年10月25日(日)まで開催される。

さらに、2027年春には、京都でレイ・ハラカミをフィーチャーした展覧会も予定されている。京都から東京へ、そして再び京都へ。扱う音楽や会場が変わるたび、〈AMBIENT KYOTO〉は新たな体験のあり方を探っていく。

次の場所では、どのような音が響き、どのような時間が生まれるのか。このプロジェクトの歩みは、これからも続いていく。

EVENT INFORMATION

RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI
AMBIENT KYOTO – TOKYO

会期:2026年8月28日(金)~10月25日(日)
時間:10:00~19:00(土日祝は20:00まで)
※最終入館は閉館の30分前まで
会場:麻布台ヒルズギャラリー
東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階

主催:AMBIENT KYOTO 実行委員会(TOW/Traffic)
企画制作:TOW/Traffic
公式サイト:https://ambientkyoto.com/

※2026年10月時点の情報です。

Photo:後藤 薫
Text:Qetic編集部/黒田隆憲
Edit:TOWマガジン編集部

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